心洗われる笑い | 『記憶にございません!』

三谷幸喜監督の映画が大好きだ。

「三谷幸喜」という名前を聞いただけで、内容も知らずに映画館に行ってしまうほど好きだ。

そして、気づくと僕は映画館のシートに身をうずめていた。あれ?いつからここに・・・。スクリーンには中井貴一さんが・・・。そしてひと言。

「記憶にございません!」

目次
  1. 史上最悪総理から普通のおじさんに
  2. 三谷映画の笑いと浄化作用
  3. 小池栄子さんが魅せたイイ女
  4. 映画のあとに続く物語

史上最悪総理から普通のおじさんに

主人公は中井貴一さん演じる、総理大臣・黒田啓介。彼はある日、一般市民の投げた石が頭に当たり、記憶喪失になってしまう。

彼は自分が何者かまったく覚えていない。それを知っていくところから物語が展開する。

そして彼は思い知らされる。何と自分は支持率2.3%をたたき出した史上最悪の総理だったのだ。

傲慢、金に汚い、エゴの塊のような人間。それが黒田啓介という男、自分の正体だった。

さあ、彼は困った。だが、困ったのは彼だけではない。特に慌てたのは、日頃から彼を支える秘書官たち。総理が記憶をなくしたことを人に知られてはまずい。

そこで、秘書官の井坂(ディーン・フジオカ)と番場のぞみ(小池栄子)は普通のおじさんになってしまった黒田とピンチを乗り切るために奮闘する。

三谷映画の笑いと浄化作用

笑った。本当にもう何度笑ったか覚えていない。

三谷映画では毎回そうなのだが、大爆笑するわけではない。あくまでクスクスと笑う感じ。

だが、このクスクスがとっても心地よい。

一夜にして悪徳政治家から善良なおじさんになってしまった黒田。そんな彼にずっとクスクスしてしまう。

パックをした妻の顔に震え上がったり、以前の浮気相手に迫られて悲鳴をあげたり。総理のオーラなどゼロで、もう情けない情けない。

この情けなさがたまらなくいい。可愛らしく思えるほどに。また、中井貴一さんの演技が情けなさと善良さを最高に引き出している。

大の大人が子どものようにジタバタしたり熱くなったり。その姿についついハマり、ものすごく癒されもする。

自分でいたずらに上げてしまったハードルがスーッと下がる感じ。 「大人もこんなんでいいじゃない」 って。それがとても清々しい。

僕はスクリーンの中のおかしな大人たちにクスクス笑い続け、日常で心に溜まった泥水はすっかり洗い流されてしまった。

小池栄子さんが魅せたイイ女

三谷映画が好きな理由。それは、登場人物ひとりひとりが魅力的で、全員好きになってしまうからだ。

中でも、小池栄子さんが演じる事務秘書官の番場のぞみ。彼女が最高に素晴らしかった。

表向きはクールで凛とした女性。そして、胸の中には実直で熱いものを秘めている。

赤ちゃんのように怯える黒田をかげで支え、そして少しずつ成長していく彼の姿を我がことのように喜ぶ。その笑顔が素晴らしく美しい。

ものすごくイイ女。

いつの間にか、自分が黒田首相になって彼女に応援されているような。そんな錯覚をおこしてしまった。

映画に恋してしまうような演技を魅せてくれた小池栄子さん。素晴らしいのひと言。

映画のあとに続く物語

映画館を出るとき、僕はある光景に思わずなごんでしまった。後ろの席にいた二人の主婦が、ずっと笑いながら映画の感想を言い合っていたのだ。

「面白かったね。」「これすごく面白かったよね。」「そうそう、あそこのあのシーンで・・・」と会話はいつまでも続く。

もちろん、どんな作品にも相性というものがある。どんな傑作でも、100人が100人、「この映画最高!」なんてものは存在しないだろう。

でも、彼女たちは間違いなくこの映画を大好きになってしまった。

そして僕もしばらく笑顔がこぼれるのを止められなかった。

それでいいんだ。

作品名『記憶にございません!』
監督三谷幸喜
出演中井貴一、ディーン・フジオカ、小池栄子 他
公開2019年9月13日
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